November 09, 2004 12:00 AM

映画館という名の至福 1

よく映画の話をすると待ちかまえていたかのように「お金が無くて」と言う人がいる。金がないからレンタルビデオ屋でいいやという人達だ。本コラムは映画に行く程度の経済的余裕がある人を対象に書かれた物で、その程度の余裕も無い人は読み飛ばしてくれ。

「時間が無くて」という人も同様。映画館に足を運ぶ程度の時間と精神的余裕の無い人も読み飛ばして欲しい。いちいち、そういう人達を啓蒙して劇場に足を運ばせようなんて気はさらさら無い。だいたい劇場に客が増えたら、観るのが大変になってしまうからね。

いまさら言うまでもなく、映画が好きだ。本が好きだった父から本を読む習慣を受け継いだように、映画を観る習慣も受け継いだ。○○町という近所には映画館もないような田舎だったので、基本的にはテレビの○○洋画劇場で映画を観ることになった。父は黒澤作品や西部劇、戦争物などの有名作品をビデオに録って見せてくれた。しかも、リモコンでポーズしてCMをカットするという涙ぐましい努力までして。まだ、レンタルビデオは無かったし、ビデオデッキもごく一部の家にしか導入されていなかった。

小学校上級生になると夜更かしをして父と洋画劇場を観るのが習慣になった。父はその間晩酌でビールを飲んでいる。映画を観ている途中に上の階から母親が下りてきて「早く寝なさい!」と怒るのが怖くて、いつも階段の足音には耳を澄ませていた。映画を見終わった後は、父と映画の批評をするのが習わしだった。

小学生の頃は時々、市内まで出て父に映画を連れて行ってもらうことがあった。ハレとケで言えば、完全にハレでありそれは特別な行事であった。

中学にはいると、友達同士でディーゼル車両に乗って1時間ほどかけて映画を観に行くようになった。気の合う仲間と観る映画をあれこれ意見を出し合いながら決めて観に行くのは楽しかった。レンタルビデオが出始めたのもこの頃だ。まだ、ビデオにコピーガードがかかっていなかったので、ビデオデッキごと運んでダビングして貸し借りしたりしていた。

高校に入ると、映画を観るということのハレとケが入れ替わる。学校をサボってはよく昼間から映画を観ていた。実家は山形で高校は山形市内だったのだが、山形は街の大きさに対してやたらと劇場が沢山あった。現在でも「ドキュメンタリー映画祭」とか開催しているとおり、なぜか映画好きな市民が多いようなのだ。もちろん、土地が安いから大した集客が無くても劇場が経営できるということもあるだろうけれども、それだけでは片づけられない理由があるように思える。山形よりも田舎で土地の安い市なんて、他にもいくらでもあるだろうから。

田舎の映画館、しかも平日なんて想像を絶するほど空いている。今までで記憶にある中で最高記録は自分を含めて客が2人というもの。作品はリドリー・スコット監督でマイケル・ダグラス、松田優作主演の「ブラックレイン」だった。しかも、観終わった後にトイレに行ったら、そのもう1人の客(タクシーの運ちゃん)と一緒になったんだよね。作品の内容とか感想をそのオッサンと話したい欲求に駆られたけれども、その時はグッと言葉を飲み込んだ。

当時の劇場っていうのは、ちょうどビデオレンタル屋が街中にできて、映画館が衰退しつつある時期だった。だから、劇場のメンテは当然よくなくて、イスはボロいわ、ゴミは落ちているわ、トイレは汚いわだった。スクリーンもでかいだけでピントは怪しいし、音響なんか音が割れまくり。THXの劇場が珍しくなくなった今とは雲泥の差があった。

浪人、大学、編集者時代はそれまでに比べると劇場に足を運ぶ頻度は少なくなったような気がする。田舎にいるときは娯楽が少ないから劇場に行っていたという事情があるけれども、東京にはクラブとか楽しいところが沢山ある。だから、そっち方に時間が取られてしまったのだろう。また、東京の劇場は混んでいる、というイメージがあったし(実際、山形と比べれば混んでいるに決まっているが)、山形では二本立てで観れた作品が一本立てでしか観られないというのも損した感があった。田舎じゃ一本の値段で二本観られるのに、東京じゃ一本しか観られないのだ。混んでいて、さらにそんな状況じゃ足が遠のいても当然だろう。
(つづく)

トラックバック


コメント

今まで生きてきた中で、最初に映画館で見た映画は「ドラえもんーのび太の恐竜」でした。
とにかくすごく混んでいて一番後ろで立ち見。小さいので、父親の肩車で見ていました。

確かに一時期、お金がないのを理由にレンタルビデオに移行しました。
が、最近は映画館で見た方がいい映画、レンタルビデオで十分な映画と
自分の中で仕分けして、再び映画館へ足を運ぶことが多くなりました。

私の実家もかなり田舎で映画は2本立てが当り前でした。
かなりボロボロで小さな映画館だったけど、映画館に行くことが何だか大人っぽくて
憧れの場所でありました。
ホラー映画を恋人と見て、腕にしがみつく!
なんてデートが憧れの時代だったんです。

Posted by: puchikuma : November 9, 2004 04:11 PM

人生映画館デビューは確か3−4歳頃、ディズニーの動物物でした。まだ字も読めないのに字幕。味をしめて それからは兄と二人でしょっちゅう子供だけで色々見に行ってました。すべて洋画。字幕。安かったしね。毎月「スクリーン」と「ロードショー」をお小遣いで一冊ずつ買ってまわし読みしてた。地方だけど幸い徒歩圏内に映画館があったので 中学ごろになると学校帰りに月に何回か 封切り2本立てを一人で 必ず一番前の席で 足を投げ出して それこそスクリーンの中に入り込んで観ていました。月に何回も色々な映画を見ていたって事は 今より回転が良かったのかもしれない・・・。大画面の中の世界にワープするので基本的には今でも一人で見たいのは変わっていません。余韻にも浸れるし、素直に涙も流せるし・・・。と言う訳で、レンタルビデオで観るのとは 自分にとって全く次元が違う楽しみなんです。

Posted by: 木挽 : November 9, 2004 05:58 PM

86〜87年に1年ほど住んでたんですけど、ほんとに映画館が多かったですよね、山形。人は少なくて。館内があんまりすいてるので前の席に足を乗っけたくなる衝動が絶え間なく襲ってきました。山形での思い出の映画といえば、七日町で見たクローネンバーグの「ザ・フライ」。朝起きて、頭が痛かったのでイクのやめよかなと思ったのですが、無理して見て「飛び」ました。館だけじゃなくて、でっかいレンタルビデオ屋もいくつかあったし、山形って映画度が絶対的に高いんじゃないですか。夜が暗い、闇が黒くて深いことと何か関係があるのかな。

Posted by: まめ : November 9, 2004 06:15 PM

あああ、なんだか涙が出てきそうだ。
すごくノスタルジーな感じがしました。
素敵なお父上へのリスペクトもみられて。

正直、お金も時間も無い身分の自分なのですが、拙者は読みとばせませんでした。
情報をこちらが取捨選択するように、発する側も受け取る側を選んでみてもいいのかも
しれない。卓越した物書きにはそういうスタンスを持っていてほしい。さらっと言うから
こそ、その人の言葉には引き込まれてしまう。これからも囁くように 言葉を届けて下さい。
個人的には、ブログのなかでcolumnが一番愉しみです。

Posted by: eng : November 10, 2004 12:03 AM

最近のシネコンは驚くほど快適で素晴らしいのだけど
古くて汚い映画館もそれはそれでヨイですね。
かなり昔、有楽町の汚いガラガラの映画館で昼間に気まぐれで
『クールランニング』(ジャマイカンのスポ根)を見たんですが、
仕事さぼってる営業マンなどしか客はいないワケですよ。
映画なんか見る気もないような人ばかり、全部で15人くらいだったかな。
なのに、感動シーンになるとそれまでムダ口をきいていた人も
黙りこくり、泣かせるクライマックスではティッシュを取り出す音まであちこちから同時に。
劇場が空いているとリラックスできるので、自分も呼吸困難になるくらい泣いてしまいまして…スポ根好きだったのかよ。。W

Posted by: TOM : November 10, 2004 12:15 AM

ビデオ派。
よほどの事がないと映画館には行かない。それも1,000円の日にさっと観る。
が読みたい本があると食事抜かしても買う。
一刻も早く読みたく、読み終わらないと明日のこと考えず寝ない。

友人は映画は映画館でちゃんと観なくてはタイプ。
彼女はひもじい時でも、観たい映画があると劇場に足を運ぶ。
感想を分ち合う友人がいないと非常に悲しむ。

お金や時間ではなく、好きの優先順位なのですよね。
映画を誘われた時まさに、「お金が無くて」と答えていたがこれからは、
はっきり「映画に行くお金が有ったら本を買う」と言おうか?でも角立つなぁ。

Posted by: H : November 10, 2004 02:00 AM

映画館は混んでいて気分が悪くなることが多い、
不覚にも泣いてしまったりしたら恥ずかしい(終了後、館外へ出た時特に) 、ということで一人で見る派、できれば家で見たい派。
でも、「E.T」(古い話で申し訳無い)ラストで場内お子様が一斉に拍手したとき大勢で見るのっていいものだなあと思った。
開演前、場内が暗くなってワクワクするのも映画館ならではだし。

Posted by: jugon : November 10, 2004 06:00 AM

はじめて観た映画、「E.T.」でしたよ!
印象的な思い出はなぜか父と「ロックよ静かに流れよ」っていう映画を観にいったこと…。わざわざ銀座までつれてってくれてコージーコーナーでナポレオンを食べさせてくれました。映画を観におでかけする楽しみを知ったきっかけです。

Posted by: 麻衣 : November 10, 2004 10:49 AM

映画は満席に近い状態で入場することが多く、立ち見した経験もあります。客2人だけで鑑賞できるとは素敵ですねぇ。映画見るなら山形が一番かもしれんですね。ちょっと焦点ずれますが、ハレとケという言葉を知りませんでした。ハレは知らずに使っていましたが、ケは恥ずかしながら全く知りませんでした。やっぱ一流作家はボキャブラリーの数が圧倒的に多いですね。ただ単に僕が無知なだけかもしれませんが。。。

Posted by: Yoshi : November 10, 2004 02:56 PM

puchikumaさん同様、初めて映画館に行ったのは「ドラえもんーのび太の恐竜」でした。ははは。

数年前まで、寂しいから一人で映画館に行けませんでしたが、ある頃、思いきって一人で行ったら、アラ快適。気を使わないし、より良い席にも座れるし、席交換がなければ何回も見れるし。
それからは、すっかり映画館派です。
でも、金銭的事情はあるので、かなり吟味してから足を運びます。好き嫌いのベクトルが似ている評論家さんの意見を参考にするかな?

やはり映画館の雰囲気が好き。観客席の一体感もしかり。1800円も出して見ている、という満足感もあるのかもしれません。
逆に駄作だと、相当へこみますが。

でも、相変わらず家でビデオも見ますよ。リラックスして何時でも見れるってのは、やっぱり便利。できたら奥山さん宅のような環境で見たいのですが・・・。

Posted by: squirrel : November 10, 2004 08:25 PM

映画、大好きです。
映画館で観るのが特に好き。
映画館には、1人で行くのが好き。

見えない結末や感想を、終映後、1人で色々と考えるのが楽しい。その時点では、誰かと一緒に行ったりして、共有する段階ではないからです。
そして後日、センスの合う友人と偶然、
「自分もそれ観た!○○だったね」
と語り合えると、すごく嬉しくなる。

でも、身近の人が誰も知らない、単館上映の映画を1人で観て、
「これは誰も知らんだろうな」
とニヤニヤするのも好きだ。
アスパラガスとか、鬼畜大宴会だとか・・

大学生の時、ある人がテレビが雑誌で、
「就職活動の時『あなたは学生時代何をしたか』の問いに対し、
『私は映画が好きで、毎日毎日映画を観て、年間365本観ました』と答えられたら、それは一つの特技だろう」
と言っていたのが、ものすごく印象的だったな。
なかなか、その数には達しないっす。

Posted by: ちょし : November 11, 2004 11:16 AM

 僕の映画デビューは小学校生の頃です。母に連れられて姉と3人で観に行ったと思います。作品は子猫物語と危険な情事の二本立てでした。今でも、鍋でうさぎが煮られているシーンは鮮明に脳裏に焼きついています。
 その後、中学生になると、姉が買ってきた映画雑誌を盗み読みしては、ウィノナ・ライダーやサマンサ・マシスに恋をしていたのを覚えています。姉はその頃、空騒ぎやスウィングキッズのロバート・ショーン・レナードにお熱でした。ある時、姉がファンレターを送ったら、サイン色紙が送られてきたんですけど、サインの横にカタカナでロバートって書かれていたのを見て、本物か偽物かで喧嘩したことを覚えています。
 今回のコラムを読んいて、そういったことを思い出すとなんだか幸せな気持ちになりました。

Posted by: tanker : November 11, 2004 11:37 AM

何度も読み返してしまいました。

私は平日昼間に1人というのを経験したことがあります。画像がスクリーンとずれて字幕が読めなくて、おまけにそれがちっとも直らないので、途中でチケットオフィスまで文句言いに行きました。

初めて観た映画は「バンビ」、親譲りの映画好きで(お父さんとのエピソード、うんうんって共感しました)、お金のない学生時代は必死に情報を集めて吟味して映画へ行っていました。地方なので2本立てはあたりまえ、オールナイト4本立てなんてのも行きました。留学中(イギリス)は安かったこともあって1年に100本以上観ました。しばらく前までは試写会にハガキ送りまくりでしたがネット経由で当たらなくなったので、シネコンの会員になり、1本観たら次の前売りを買うという生活です。観ているときは1人でもOK、でも終った後に話す人がいないと寂しいので、連れと別々の映画を観ることもあります。(泣いちゃったりしたときも恥ずかしいし・・・)

こんな私のall time bestは、「カイロの紫のバラ」(ウッディ・アレン)です。映画好きにはたまらない1本ですね〜

Posted by: あさ : November 11, 2004 11:37 AM

映画館派だなぁービデオだと途中で止めたりできるから集中して見れるのは映画館かも
この頃単館が多いから廻りも一人な人ばっかりだし気楽
小学生や中学生の頃は母が映画大好きというせいもあって3本とか掛け持ちしてた。
1日中映画館にいる感じ。そんな家庭って周りにいなかったからあたしは幸せものだと思う。
何年かに1回すごい泣きたくなってわざと泣ける映画を見に行って泣きます。
なぜか家でやらずに外でやる。結構なストレス解消です。
一つびっくりしたことがあって、映画を見に行く理由に「今話題だから」っていう人がいた。
見たいから見るのではなく、話題だから、見ないと世間においていかれるから。。。
うーん、ひとそれぞれ

今は映画館の椅子とかもよくなってきてるけど、どんどん家庭用テレビが高性能になってくるから映画館も大変ですよねぇーあれ以上値段高いと見に行くの躊躇しそうだし。

Posted by: mami : November 11, 2004 12:47 PM

あささん一押しの「カイロの紫のバラ」 確かにあったかくていい映画ですよねー。その昔、初期のウディアレン特集とか言うのを 横浜だったか京浜地区でやってたのを観に行った事があって それが「泥棒野郎」か「バナナ」か「スリーパー」か何だったか忘れたけど、とにかくめちゃくちゃ可笑しくて、「あ、又 可笑しなことになるだろな」と思う1.2秒前にそれを予測して「くっくっく」と始まる連続。もう止まらない。ひたすら笑いがこみ上げてきて助けてー状態。なのにふと周りを見るとここまでばか笑いしてるのって自分だけ?うっそー。何で皆可笑しくないのー?みたいな体験をした事を思い出しました。あれは何だったんだろうか。今でも謎です。

Posted by: 木挽 : November 11, 2004 02:00 PM

昔、大阪キタに「大毎地下」という名画座があって、
700円で2本立てが見れました。結構、この2本立てが考えた組み合わせで。
関西で今30代半ば以降の映画好きの人だと必ず通ったんじゃないかなぁ。

もうすぐ引越しするので、部屋を片付けていたら、
古い財布から、未使用のご招待鑑賞券が出てきて
すごく懐かしくなったので、思わず初めて書き込んでしまいました。


Posted by: むむ : November 11, 2004 02:23 PM

映画館は1800円均一で一部割引つーのと、一気に800円くらいに値段を下げて観客動員数を上げるというのではどっちが儲かる
のでしょうか。経営のこととかは良く分かりませんが、中高生が
お小遣いの範囲で観にいける映画館の方が長い目で見たら生き
残る率が高くなると思います。(無責任かもですが・・)

 ビデオを自宅で見るのは楽しい。でもやっぱ劇場で見る
ドキドキワクワク感が映画の醍醐味ですよね。撮ってるほうもそれを得てくれることを望んで作っていると思うし。
映画館は大人の世界への憧れとか会場の人たちとの一体感を
得る等、色々楽しみが多い場だと思います。客入れ前・後の
一服なんかも大切な儀式だったりするし。ライブと同じです。映画
鑑賞はその上に何か優雅なカンジもするので好きですねー。
最近世間は下品でせっかちなのが蔓延しているから余計にそう
いう時間を大切にしないといかんとゆー気がしています。

Posted by: sak : November 12, 2004 01:50 AM

今更コメントなんて・・・。
私の映画館最少人数記録は自分だけの貸し切り状態です。今でも忘れません。今から18年前かな?高校生時代、水曜日の昼間見たイタリア映画
『アタメ』です。内容も当時の私にとって、とても斬新でした。特に、友人の女性がドアを開けたままトイレに入っているシーンです。なんてオープンなんだろうって驚きました。そのトイレもまるで部屋の中にあるような感じで、不思議な感じがしました。

Posted by: Jean : March 28, 2007 02:15 AM
コメントする
お名前(ニックネームでもけっこうです)とメールアドレスは必ずご記入ください。
メールアドレスは管理者にのみ通知されます。









名前、アドレスを登録しますか?






 Copyright©2004 Makino Publishing Co.,Ltd. All Right Reserved.