パブリディ
〜 カラス王ツナビーと人間になりたかった仲間たちとは? 〜
街を舞台に、カラスたちが繰り広げる冒険ファンタジー。
第7章 「いのち」の変身
(前回までのあらすじ)ツナビーは魔の山に登頂の途中、夜に登攀する雲水の海平に会った。彼に同行して霊場に入った所で、カクベエだけが境界の割れ目から飛び出してきた。
霊場に建つ冬の本堂に到着、老僧が「人間にもどる大経」をしてくれることになった。

5・人間の霊魂に接触

「この霊場には、世を去った人々の霊魂が、和気あいあいと集って来る。われらと同じ時代に生きてきた同士であれば、同じ時間を設定して出会うことができる。その時間に、お前は飛び込むのだ。そこでさ迷う亡者と会って、この世に未練がある亡者と入れ代わってやる。亡者は再び、世によみがえる。つまりお前の肉体は鳥から、人間に変身するだろう。肉体はよみがえっても、知恵だけは、生命の泉を求めねば生まれてこない。これは菩薩のお教えで授かるしかない。長い時間の修行がいるかもしれない。ただし、失敗すれば死に至り、体は滅びることを知っておくことだ」
  老僧は「わたしも一心に唱えようぞ」と言って、菩薩像の前に座ってツナビーに呼びかけた。
「まず、三日三晩、座って、お経と念仏を唱えなさい。それから始まる。今日は、宿坊でゆっくり休みなさい。明日の朝から、始まります」
  ツナビーとカクベエは緊張しながらも、「ありがとうございます」と深く頭を下げて挨拶をした。すぐに海平が食堂に連れて行って、食事の前に5つの訓(五観文)と作法を教えた。これは食前、食後の戒めのようなものである。たとえば「この食べ物が食膳に運ばれるまでには、幾多の人々の労力と神仏の加護によることを思って感謝いたします」と唱えるものだった。
  日が落ちると、海平は木戸を開けてツナビーとカクベエを外へ連れ出した。日のある時間と違って、まったく暗闇である。昼に通って金鉱石の道をもどった。
「どちらへ行くのですか」
  ツナビーが尋ねた。海平は「昼間では見えない、生きていた者たちの霊魂を見送りに行くのです」と、答えた。三途の川のたもとに着いた。対岸に帆船が着いている。ぞろぞろと白い人が乗り込んでいる。人間だけではなく、動物も、鳥もいる。その中に、カラスの大群がいた。
「カラスが多いな。あれはおそらく、大量に殺されたもの達だ。恐ろしいことだが、捕獲されて、みんな命があるのに、ガス室で殺されてしまったのだ」
  ツナビーとカクベエは冥土(めいど)湖(こ)を渡る大群のカラスを見ていた。その時にカクベエが、長い行列の中に「声が聞こえる」と言った。
「おとうーさん」
  遠くから、声が聞こえた。ツナビーは聞き覚えのある娘ハナだと気づいた。
「いったい、どうしたのだ」
  ツナビーが叫んだ。海平がツナビーの体を抑えた。
「決して、霊魂と話をしてはならぬ。死んでしまうぞ。おまえにはカラス族のためにやらねばならない道がある。つらいが我慢せい」
  と海平は怒鳴(どな)った。
「おとうーさん」
  ツナビーは声を出さなかったが、娘が捕獲ワナで捕まり、大量虐殺にあったことが推察できた。彼は空を見上げ、流れるカラスの一群にまじっている娘の姿を呆然と見ていた。
「カラスには、涙がない。泣くこともない」とツナビーは言った。そして次の時には、娘の声は聞こえなくなっていた。
  本殿に入れてもらうと、ツナビーは老僧の後ろに座り、菩薩像に向かって語り始めた。「娘ハナよ、すまないな。わたしがいない間に、捕獲ワナに捕まってしまうなんて。あれだけワナに近づくなと言っていたのに。もう仕方ない。鳥はいつ死でもいいように、覚悟はしているものだが、自分の娘はつらいな」
  ツナビーが語りかけても、娘ハナからの返答はない。ぽっかりと心に穴が開いたように放心状態となった。その横にいた海平とカクベエがツナビーを支えた。
「いよいよ厳しい修行に入るぞ。これくらいでどうする。我慢、耐えるしかない。生きるとは、耐える、一心に耐える。そうすれば、明かりが見えてくるはずだ」
海平がツナビーを説いた。
  翌朝、まだ日の上がらない時刻、ツナビーはカクベエと共に本堂に入ると、すでに神通力を持つ老僧と海平が祭壇の菩薩像の前に座っている。大般若経の経文600巻を箱から取り出して、大声で「降伏(こうふく)一切(いっさい)大魔(だいま)最勝(さいしょう)成就(じょうじゅ)」と合唱した。ツナビーたちは合掌して祈願する。
  三日三晩、読経が続いた。
  ツナビー達は食事と用便以外は立ったまま腰を落としているので、座っているように見える。
老僧が声高に叫んだ。
「いよいよだ。時機がきた。ツナビーならびにカクベエはこの前に立つがよい。そのまま、空洞に入れ。そこには成仏できないでいる人間がいる。その霊魂を見つけて、よく吟味して、お前の体を人間と入れ替える。人間の体はよみがえる。カラスのお前の体は消滅する。永遠に、カラスにはもどれないぞ。人間に話しかけて、体に入り込め」
  急にツナビーの体が宙に舞い上がって、堂内から消えた。続いてカクベエが白い煙を出して消えた。空洞の広い空間に、人間の霊魂があちこちから現れた。まだ人間に未練がある者たちだった。彼らは生き物を見ると、人間にもどろうと、飛びついてきた。
2007年1月23日更新


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